物語の力

 

おはなし をすることの必要性を今ほど強く感じていることはない。ストーリーテリングは、読書の入り口として有効な手段だという点では、変わりはないのだけれど、コロナ禍の収束が見えない中、物語の重要性を今まで以上に感じている。中でもストーリーテリングで使われる昔話は、当たり前が揺らいでいる今こそ、私たちに必要だと感じる。

 特に新しいお話を覚える過程で、今まで意識していなかった物語の強さを感じることがある。昔話は、口承で長く受け継がれてきている分、人間の本質が通奏低音のように物語の進行とは別に織り込まれている事に改めて気付かされている。今までだったら気にも留めないところが、今だからか響いてくる。物語は人類が編み出した、人という生き物を知る仕組みなのかもしれない。時代とともに変化する部分と人間という生物が持つ普遍性は、昔話の中に息づいている。この世に生を受けたものは等しく死んでいく。それがいつかは何人たりともわからないという点で平等だ。死にゆく事に因果応報などなく、理不尽なことも多い。けれど死ぬまで生きるのだ。不条理だからと嘆いても好転しないことは物語が教えてくれる。私たちは、先人が残してくれた昔話という英知を、一個人の感傷に囚われずに、物語として伝えて行けたらと切に願う。