語り手として時間を重ねると、新しいおはなし を選ぶ際、ストーリーテリングとして楽しめるかどうかが、なんとなく分かるようになります。
けれど、ストーリーテリングを始めたばかりの頃は、おはなし を選ぶことが簡単にできないことが多いです。
耳で聞く物語の場合、どういうものがふさわしいのかが、感覚として掴めない人が多いからです。
それは、物語を聞く体験が決定的に少ないためです。物語を聞いて育った人は、今はほとんどいないといってもいい状況です。伝承の語り手は子ども時代から浴びるようにおはなし を聞いて育ったからこその、語り手です。
テキストから覚えて語る私たち現代の語り手は、子ども時代に物語を聞いた経験がゼロの人も多いです。
聞く物語の作りや言葉の良し悪しは、聞いた経験値がものをいいます。けれど私たちは、自分も語りながら勉強会で他の語り手の語りを聞いて経験を積んでいくことになり、語ることと聞くことのトレーニングは、同時進行になります。
これは、語り手にとって深刻な問題となります。
ストーリーテリングを子どもたちが楽しめるかは、物語を選ぶ段階で8割方決まってしまうからです。聞くのに向いていない話を選ぶと、覚えるのも大変ですし、聞いてもらえなかったりします。
さらに、聞いてもらえないことは、語り手にとって苦痛なので、語り方をいじったり、聞き手に原因を求めたりして、解決から遠ざかってしまうことにもつながります。
テキストを選ぶときは、読んで楽しいものと、聞いて楽しいものは、必ずしも一致しないことを心に留めたいものです。