イメージ

 ストーリーテリングでは、イメージという言葉がよく使われますが、簡単なようで、意外とわかりにく概念のような気がします。

 何しろ見えないので、共有するのが難しいという事もあり、重要視しない向きもありますが、きちんとイメージが固まっているかどうかで、聞いたときに歴然とした差が出ることも事実です。

 言葉とイメージの関係を伝えるのに、小説の映像化の話をすると大体の人が納得してくれるように思います。小説の登場人物の顔だったり声だったりが映像化された際、しっくりこない、違和感を感じるという体験は多くの人がしていて共感しやすいのだと思います。

 けれどストーリーテリングのイメージは、主人公の姿形のレベルではありません。物語の世界を丸ごとイメージできなければならないのです。だからこそ何度も何度も読まなければ、作れないのです。覚えられなくて何度も読むのではなく、イメージを固める作業として読んでいるし、読む回数が多いのは物語の世界に滞在し続けるためともいえます。

 小説では、主人公の登場回数が圧倒的に多いので、結果、何度も読んだ形になり、主人公の姿形はその小説を1回読んだだけでも読んだ人の中にイメージが残ります。

 けれどある場面の主人公の衣装に違和感があるとか、主人公が住む町の風景に違和感があるなどの細かい設定は、1回読んだ位では、違和感が生まれるほどのイメージを読者が持つに至らない場合が多いと思います。

 ストーリーテリングでは、物語の世界観を支えているこういった細かい設定まで、イメージし、再現できるようにしています。そして物語の進捗に関わる重要なイメージを取捨選択して、イメージの解析度を変化させています。

 注意しなければならないのは、意図的にイメージを作るのは覚えている時のことで、語る際には、完成した物語の世界を見て、感じているだけで、イメージを作りながら語っているわけではない点です。

 語り手が意識しているのは、物語を聞き手に渡すことであり、イメージはそのための手段で、イメージすることが主役になることはないのです。

 ストーリーテリングのイメージ作りのお手本にするとすれば、長く読み継がれてきた絵本だと思います。物語が滞りなく進むために、過不足なく描かれた絵とその世界観にあった絵の質感は、物語の世界に自然に浸れ、違和感なく浸ることを助けています。

 この絵本の絵がストーリーテリングでいうところのイメージを作るということだと思います。