テキストを読むということ

 物語は、読者の中で自由にはばたき、読んだ人の内面でその人に合わせて変化し熟成します。同じ物語でも読む人によって心に残る部分が違ったり、好きな場面が違うのはよくあることです。

 語り手は、イメージで物語を整理し、その世界観を再現できるように何度も読みますが、それは、物語を深く読み込むというのとは違う作業です。

 私たちは学校教育で国語を学ぶ中で、主人公の気持ちを読み解き、物語の中でなぜこういう行動に至ったのかなどを、文中から、拾い出す訓練を最低でも9年、そして高校や大学では、文中以外のその作品が描かれた背景や作者の生い立ちまで考えて、物語を捉え、理解する訓練を受けます。

 そこで、何度も読みましょうと言われると、学校教育での読み方をされる人がいます。

 けれど語り手に必要なのは、物語がなぜそのような展開になっているのかを読み解いたり、物語が構築された背景を知って物語の奥行きを感じると言った、物語を深める作業ではなく、よりシンプルに物語の展開を削り出し、際立たせる作業です。

 物語の展開がくっきりするには、物語の世界観がぶれないことが重要になります。

 そこで聞き手がが疑問を挟む余地がないように、本当のことと感じられるように、思わず物語に入り込んでしまうゆるぎない世界を昔話の簡潔で無駄のない言葉で語る必要があります。

 その為にテキストを何度も読んで、イメージを固めているのです。

 ですから何度も読む作業はそのためのもと意識することが大事になってきます。