同じ物語を繰り返し聞く

 前回 おとなの聞き方は雑念が混ざるという言い方をしましたが、言い換えると、言葉からイメージする力が完成しているので、物語を紡いでいる言葉に集中しなくても物語への出入りが自在にできるとも言えます。

 子どもは、言葉を受け止め、それを自分の頭の中でイメージに変換しながら聞くことに慣れていないので、変換に精一杯なのです。

 そして言葉だけで変換が難しい子は物語を聞きながら絵を見せてという言い方をすることがあります。これは言葉からイメージ変換することが間に合わない、もしくはイメージが作れないというメッセージだと思います。

 また言葉からイメージを作り慣れない子は、聞いている間は物語以外のことを考える余地がなく、途中で物語の外に出てしまったら、戻ることが困難だったりします。

 そして言葉からイメージすることはおはなし を聞くことに慣れていくことで、自然と身についていきます。年齢ではなく、ストーリーテリングを聞く体験が多い子の方が聞くのが上手で、スムーズに言葉からイメージを作っていると感じています。

 東京子ども図書館の松岡享子さんが、ご自身の松の実文庫での話として、文庫に来ている子どもたちに、子どもたちがもういいというまで毎週同じ話をした逸話を紹介されています。その中で子どもたちがおとなの予想以上に同じ話を繰り返し楽しむことができると書いていらっしゃいます。

 文庫という固定の聞き手を持っているわけではない、私たちは、子どもたちがいいというまでというのは無理としても、同じお話を語ることを避ける必要はないような気がします。

 同じ話を聞くことで、物語に留まりやすくなり、言葉からイメージを作ることが楽にできるようになるのではないかと思います。知っているという安心感は、子どもが先を予測して聞くことになり、イメージを準備して聞く形が取れるからです。おとなは意外性を好みますが、次は何が起こるのか、手に汗握る状態ばかりが、ストーリーテリングの面白さではないと思います。語ってみると昔話には予定調和があり、その予定調和を子どもたちは好ましいと感じていると思います。そう考えるとやはり同じ話を何度も聞くことは、子どもたちにとって面白いことなのではないでしょうか。