語り手と聞き手

 ストーリーテリングは、語り手と聞き手で完成させるものなので、極端に言えば、言葉は同じでも、出来上がりは、同じになることはないと思います。だからこそ、覚えて語る意味があるのだと考えています。

 それを成り立たせるには、聞き手がどう受け取っているのかを、感じながら語ることが大事になってきます。

 ガッチリとイメージを固めるということと、矛盾している印象を持たれるかもしれませんが、自分が作った物語の世界に聞き手を招き入れると微妙に世界が変化することも、ストーリーテリングの醍醐味だと考えています。

 招き入れることで変化が生まれても、物語世界が崩れないためにイメージを固めているのであって、微妙な変化を受け入れられないような硬直したイメージでは、聞き手に負担をかけ、聞くことを辛くさせてしまいます。

 かと言って、聞き手に引きずられて、物語の世界観が崩れたり、選び抜かれた言葉を使えずにぐずぐずになってしまうと、それもまた物語をいびつにしてしまいます。

 言葉で伝えるのは難しいのですが、この辺のバランスは、子どもたちに聞いてもらうことで身につきます。

 子どもに語る前に勉強会でおろすのは、物語の世界観が完成しているかどうか、聞き合って確かめるために必ず必要なことですが、それは出発点だという事を忘れないようにしたいと思っています。

 ストーリーテリングを届けるようになって、物語の世界は、柔軟で、豊かなもだと改めて思います。語っていると物語を聞いた人の中で物語が花開くのだという事を実感するからです。

 物語を届けるというのは、間違えずに語る事や価値観の押し付けではなく、物語の力を知って誠実に差し出す事だと思います。そしてそれを受け取ってくれる聞き手と共に作り上げる、これで完成という地点がないものだと、だからこそ楽しいのだと思っています。