聞き手と育つ

 前回、ストーリーテリングは語り手と聞き手で作ることに触れましたが、語り手が最初からうまく語れるわけではないように、聞き手も、最初からうまく物語を受け取ることができるわけではありません。言葉からイメージを思い浮かべながら、物語の進行についてこられなければ、受け取れないからです。

 これができるためには、物語の世界に浸った経験と、ストーリーテリングを聞き慣れることが必要です。

 物語の世界に浸る経験は、絵読みができる絵本で、物語を楽しむことで培うことができます。これは、家族間でも集団でも育めますが、子どもが繰り返し楽しみたい絵本に出会って行けることが大事です。この素地があるほうが、ストーリーテリングに親しんで行きやすいと感じています。

 ストーリーテリングを聞き慣れるというのは、回数を聞くということです。一回うまくいかなかった からと言って、無理だと判断するのは、早計だと思います。けれど無理やりは、かえって苦手意識を育ててしまうので、注意は必要です。語り手のイメージがしっかりしているのに、絵を見せてという声が1人ではなく何人もの子どもたちから上がる時は、絵本を読むようにするほうが望ましいと思います。物語を楽しむ入り口にいる子どもたちにとって、慌ててストーリーテリングに移行する必要はないと考えています。ただ、ずっと絵本で事足りるかというと、自分で読む楽しみを知って行くには、ストーリーテリングを楽しめることが、助けになると考えています。

 ですから、私たちは聞き手と一緒に育って行く必要があります。できれば聞き手が固定しているところで、定期的にストーリーテリングをして行くと、聞き手と育つ感覚を実感しやすいのではないかと思います。

 私たちは公共図書館でのおはなしの会が基本の活動場所ですが、残念ながら、毎回誰が参加してくれるかは予想がつきません。日本でストーリーテリングが家庭文庫という固定した聞き手のいる場で広まり定着してきた事を考えると、聞き手が固定しているところで、じっくり腰を落ち着けて語る場も必要ではないかと思っています。