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それって絵本のせい?

 社会的な価値観は、時代とともに変化していきます。

 以前は当たり前だったことが、今は不適切なことになる様をおとなは知っています。

 そして服装や持ち物の色といった細かいところまで、人権や平等といった価値観の基盤となるという方向で考えられるようになってきています。

 確かにステレオタイプを避けようとするのは、大事なことだと思います。

 でも多様性を認める柔軟な考え方の取得を妨げるのは、子どもたちを取りまく、おとなの姿勢であって、絵本のせいではないのではと思うのです。

 絵本は絵として固定するので、期せずして時代を写していることがあります。けれど、現在の価値観に合わない部分があるという点で排除されていくのは、もったいないと感じています。

 子どもに悪影響を与えるという判断で『ちびくろさんぼ』や『シナの五にんきょうだい』などが絶版に追い込まれたことがあります。

 今の価値観からすれば、問題になる言葉や絵が含まれていると思います。

 差別と戦ってきた人たちからすれば許せるものではないという考え方ももっともだと思います。

 反面、『ちびくろさんぼ』や『シナの五にんきょうだい』が絵本として非常に魅力的なものだというのも、間違いないことだと思います。

 だからこそ差別が刷り込まれると言う声が聞こえそうですが、本当にそうでしょうか?

 『ちびくろさんぼ』を楽しんだ子どもが、差別的な考えをもったおとなに必ずしもなるわけではないと感じています。エビデンスに基づいたものではありませんが、『ちびくろさんぼ』が好きだったというおとなが、私の周りにもたくさんいます。『ちびくろさんぼ』が差別を助長するものなら、もっと社会が差別的になっているのではないかと思いますし、『ちびくろさんぼ』が好きと言いにくい社会の方が息苦しい感じがします。

 絵本や物語を目の敵にしなくても。知識は後からついてくるものです。子どもが自分で会得した知識で、子ども自身が振り返って考える機会を待つのも、大事かもしれないと思います。