おはなしの出し入れ

 ストーリーテリングを始めた頃は、何しろ語れる話を持っていないので、せっせと新しいお話に取り組んでいました。特に、藤井先生の勉強会に参加し出して、他の語り手のストーリーテリングを定期的に聞くようになったことで、語ろうという意欲が高まりました。

 加えてそこは、自分で文庫を開いている人が集まっている会だったので、子どもを意識したおはなしを聞くことができ、それがとても心地よく、夢中になりました。

 はじめはメンバーが月1回のペースの勉強会に毎回違うおはなしを持ってきていることに、とにかく圧倒されました。

 そのうちメンバーのすごさはそれだけでないことに気がつきました。月1回の勉強会では文庫でするおはなし が足りないのです。文庫は、月1回のペースで開かれているわけではありません。少なくとも月2回から毎週というところもあります。スタッフがたくさんいる文庫もありますが、勉強会のメンバーは、個人で開いている文庫の人が多かったのです。

 聞くと、新しいおはなし 以外に、文庫で使うおはなし を、毎週戻していると当たり前のように言われてとても驚きました。

 当時私は、並行しておはなし を持っていることができませんでした。新しいおはなし に取り組む時は、以前のおはなし をすっかり忘れるために、おはなし に触れない時間が必要で そうしないと次が入らなかったのです。

 けれど、その時は無理だと思っていた並行しておはなしを持つことが、だんだんできるようになりました。

 そして、文庫を持っている人たちに、優れた語り手が多い理由は、このおはなし の出し入れも関係しているのではないかと思います。おはなしを戻す作業は、イメージと言葉の結びつきを強くし、スムーズにイメージが流れるようになる練習でもあると語ってきて思います。

 おはなし を戻す時、言葉が出ることに安心して流してしまわずに、あえてイメージから言葉という手順を意識してみると、より聞きやすいストーリーテリングになっていくと思います。