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立場を変える

 物語を楽しむことで身に付くことの一つに、立場を変えることがあると思います。物語の展開についていくために、無意識に物語の主人公と一体化したり併走したりするからではないかと考えています。

 特にストーリーテリングでは、聞き手は主人公と自分の区別をさほどつけない楽しみ方をしていると思います。それは語られることで物語が常に動いていくので止まって考えることができず、余計なことを考えていると物語から振り落とされてしまうからだと思います。

 そして自分で読むようになると、気になった場面に留まって考えることや前に戻って読み直すことも自由にできるので、主人公と自分を重ねるばかりでなく、対峙することもできるようになり、一層自分以外の考え方や行動の意味を深く考えるようになるのだと思います。

 このように物語を楽しむことは立場を変えるトレーニングという側面があると思います。

 そして文面から意図が読み取れないのは、読書経験が足りないからだと言われることが多いですが、相手の意図が汲み取れないのも実は、読書経験が足りないのではと思います。もちろん人との関わりが足りない、集団で遊んだ経験が足りないといった対人関係の改善は必要ですが、それに加えて読書やストーリーテリングも、立場を変えることが身につくので相手の意図を汲み取る助けになる気がします。

 そのために物語を楽しむ時に善悪で切り捨ててしまわずに、こんなこともあるんだという楽しみ方を子ども時代にしておくことが、意外と重要なのではないかと思います。物語の中では、どうしようもないことが起こります。それを現在の価値観で、かわいそうだとか残酷だ、人権的でないから読む価値がないと思ってしまうことで、大切なものを置き去りにしているのかもしれないと感じています。