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感覚も大事

 職人や芸術の世界で、弟子を指導している人は親方や師匠と呼ばれますが、教える専門ではなく、現役で活躍しています。そういった世界では、「技は盗め」とか「見て覚えろ」という言い方をすることがあります。学校教育に慣れていると甚だ不親切な言い方だと思いますが、的を得ている部分もあると感じています。

 技は、人が行うことなので、再現する人自身の感覚に頼ることが必要です。同じ仕上がりを目指しても、身体の使い方の感覚はひとりひとり違うので、マニュアル化しきれないものだと思うからです。そして仕上がりの状態も感覚がものをいうと思います。数値化などしても捉えきれないところに求めているものがあったりするからです。日本の町工場に他の追従を許さない技術があったりするのも、この感覚を軽んじず、時間がかかっても技として習得しようという伝統があったからだと思います。職人の世界で使われる「腕を磨く」という言い方も、技は身体の使い方にかかっているとわかっていたからこその言葉だと感じています。

 現代は証明できること、裏付けがあることを重視する時代ですが、感覚を無視し否定すると、置き去りにしてしまうものがあると思います。人類は発達し発展しています。けれど現在再現できない技術というものもたくさんあります。技術は受け継ぐ人がいなくなった時に失われます。理由は様々ですが、人を介して伝承していくものが確かにあります。無形文化財などはその典型的なものですが、文化財まで行かなくても私たちの営みの中でも人を介すことで受け継がれているものはたくさんあると思います。

 そう考えると、感覚を軽んじてはいけない気がします。直感やなんとなくという根拠のない感じ方を否定する風潮がある今、感覚も大事だと意識する必要があると思います。