時間のかけどころ

 やってみるならストーリーテリングより読み聞かせをやってみたいという人が多いと感じています。おとなが初めてストーリーテリングを聞くと、語り手が物語を覚えていることが強く印象に残るようなので、ハードルが高いと思われがちです。覚えなければ語れないので覚えることが重要で、自分は覚えるのが苦手だから向かないと判断されるのは残念です。ストーリーテリングをわかってもらえていないと思うのです。

 一般的に覚えるというと試験勉強を思い浮かべる人が多いのではないかと思います。覚える期限があって単語や年号を機械的に覚えた経験が誰にもあるからです。この暗記と物語を覚えることは違うことだと感じています。暗記だといかに効率よく早くたくさん覚えるかが大事ですが、物語を覚えるときに効率を考えると物語のバランスが壊れます。

 物語を覚えるときには、語ろうとする物語を100回読むと良いと言いますが、どこに時間をかけるかという示唆だと思います。語り手はよく知っている物語を語っているのです。物語を覚えるというのは、よく知っている物語に言葉をつけることです。知らない物話をがむしゃらに言葉で覚えるのではないのです。イメージを固めることもよく知っている物語だからできることです。

 覚える以前に語ろうとする物語をよく知っている物語にすることが、ストーリーテリングでは重要です。よく知っている物語にするためには時間が必要です。何度も読むこともですが、自分の中で寝かせる時間も必要なのだと思います。経験を積むと物語を覚える際の時間のかけどころがわかってくるため、覚えることが大変だと思わなくなるのではないかと感じています。よく知っている物語になるまで覚えようとしないで、繰り返し読んでみると、ストーリーテリングの印象が変わるかもしれません。