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見たことがないもの

 人間は、見たことがないものを注目するように作られていると思います。それは毒物などの危険を回避し生き延びる手段としての習性なのだと思います。そして習性ですから、危険と関係ないことでも見たことがないというだけで注目してしまうのだと思います。

 この習性を意識していないと、絵本の評価に影響が出ると思います。注目するというのは、目を引くということでもあるので、読む前からいい物だと思い込んでしまう面があります。新しい本がいいと思うというのは、内容の評価意外にこの見たことがないものに惹かれている部分があると思います。

 何度読んでも読み飽きない本を選びたいと思っているのは、この無意識に惹かれてしまう事を避ける方法でもあります。そして時代が評価を通すという視点になると、ひとりの読み飽きないだけでなく、同世代の支持を受け、次の世代にも支持を受けということになるので、客観的な評価になっていくのだと思います。

 ただ絵本は出版されるものですから、売れなければ出版流通しないという問題があります。出版流通で利益を上げることは、出版流通を守ることでもあります。出版不況と言われて久しいので、出版社が売れる本を作りたいと知恵を絞ることは自然なことです。けれど売れることだけ考えていくと見たことも無いものを追求することになり、読み手が置き去りにされ、欲しい本が出版されないことにつながると思います。そして売れる手段としてメディアミックスが進み、大きな流行を起こすことだけが目的になってしまうこともままあります。そのため何が原作かわからない作品が増えていると感じています。どのメディアでも、作品が一番引き立つメディアを選択して作品が作られてきたからこそ、時代を超える作品が生まれたのだと思います。見たことがないものを見る楽しみを否定するつもりはありません。でも見たことがないものだけに引きずられるのは寂しいと思います。