昔話に慣れる

 昔話は現実社会では起こらないことが起こることがあるため、子供騙しだと軽んじられることがあります。けれど私たちの感覚ではありえないと思える出来事が起こっても無秩序に使っているわけではないと思います。この点を見誤ると昔話のおもしろさが半減すると感じています。

 昔話には昔話の世界観がありそれを成立させるための法則があると思います。昔話が紡ぎ出す世界は無駄がありません。聞いて理解できるように作られているので、物語の進行に必要な人物、必要な物しか語られないのが特徴です。口承で残ってきた物語はたくさんの聞き手に磨かれながら、たくさんの語り手が語ってくることでこの必要なものしか語られないという法則になったのだと思います。昔話がストーリーテリングのテキストに選ばれるのは、必要なものしか出てこないシンプルさが、聞き手を迷子にさせずに物語について行きやすくしているからだと思います。

 ただこの特徴は、昔話が語られた時に力を発揮するものです。そのため聞く経験が少ないと昔話のおもしろさを理解できないことがあります。そして語り手が使うテキストは活字化されたものです。昔話の特徴を理解していないと読んでおもしろいのか、聞いておもしろいのかがわからないまま選ぶことになります。

 また芸術分野の作品は、先人の作品から着想を得たり影響されたりして発展してきています。再話されて活字化されてきた昔話も例外ではなく、口承の形を残さない昔話や、馴染みのある昔話のタイトルがついていても、もはや創作の域に達しているものなども混ざっているのです。そして読む分には口承の形を残さないものの方がおもしろかったりします。

 そこで読んで活きるのか聞いて活きるのかの区別がつく必要があります。口承を意識した再話の中から自分が語りたい話を選ばないとせっかく覚えたのに聞いてみたら物語について行けないといったことが起こります。

 選ぶためには、個々の昔話の特徴やその話に抱く自分の感性だけでなく、昔話というジャンルの特徴を捉えることが大事だと思います。そのためにもストーリーテリングを聞く体験はとても大切です。そして聞いて昔話に慣れることに加えて口承を意識した再話のものを読み慣れていって欲しいと思います。