聞きやすさを支えるもの

 昔話は語られることで伝わってきたと同時に聞き手の記憶が伝えてきたものです。物語を聞いて記憶に残る形で語ってきたからこそ活字で記録しなくても伝えられてきたのです。そしてこの記憶に残るということがストーリーテリングがおもしろい理由のひとつだと考えています。

 記憶に残るためには物語を形作っている骨組みがきちんと伝わることが重要です。聞き終わった時にああおもしろかったと感じてもらうことも大事ですが、おもしろかっただけではたくさんのおもしろかったに埋没して記憶に残りません。かと言って物語の中で起こることを何一つ落とさないように渡していこうとすると情報量が多すぎて聞き手を疲れさせ聞き手の記憶に残りません。それはあらすじとも違うと感じています。あらすじは物語を読んで内容を整理する方法で何度も読み込んで行う作業なので、聞いて受け取るものとは微妙にずれる気がします。語る側から考えても、語る時あらすじを意識することはありませんし、あらすじを膨らませて語ることもありません。

 語り手が物語を覚える時に大事なのはイメージを固めることと繰り返し書いていますが、イメージは聞き手の記憶に残る時にも作用していると感じています。イメージで固められた場面の連なりが記憶に残るのだと思います。そう考えて思い返すと長い話になればなるほど、ポイントとなる場面がイメージとして鮮烈に聞き手の中に残るような設定になっていることに気がつきます。

 グリムの昔話の「金の毛が三本ある悪魔」を例にあげます。生まれた時に王様の娘と結婚できると予言された赤ん坊が王様に疎まれ箱に入れて川に流されます。けれど箱は沈みません。この沈まず流れていく場面は、流されても沈まず生き延びることで主人公が困難に打ち勝っていく者であることを象徴しています。この場面は強く聞き手を掴み主人公の動向に注目していく仕掛けになっています。ストーリーテリングで物語の骨組みといった時に考えているのは、こういった場面です。これをきちんとイメージで固めることができていれば聞き手は物語についていきやすくなり、聞きやすいストーリーテリングになります。活字で組み立ててきていないものだからこそ、目に見えるような場面設定になっているのだと考えています。そしてことさら強調しなくてもきちんとイメージで固めることだけで伝わるようになっているのが昔話の強みです。

 昔話は聞くことで記憶に残ってきたということを語り手は意識することが大事です。そして昔話の特徴を活かすことが聞きやすさを支えることを意識して欲しいと考えています。