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沼っぽい!?

 比較的新しい表現で「沼」という言い方があります。沼に落ちるとか沼にはまるという言い方をします。抜け出せないくらいに何かにどっぷりとはまっている状態を指すのですが、感覚的に伝わりやすい言い方だと思います。使われ方が「オタク」に似ていますが、この「沼」は汎用性があり「沼」の種類は多種多様です。そして「沼」の使われ方は深いですが狭い感じがします。例えば文房具の沼にはまるとも言われますが、万年筆のインクだけに特化してインクの沼にはまるというほうが沼らしいのです。一時期、何かに夢中になっていることを否定的に捉える風潮があり「オタク」などは否定的に使われている印象でしたが、この「沼」は肯定的に捉えられている感じがします。多様性を認めるということが定着してきたことと、何を選ぶにしても選択肢が多い恵まれた環境が後押ししていると思います。

 なぜ「沼」を取り上げたかといえば、おはなしざしきわらしの会の活動もある意味沼っぽいと思われていると想像するからです。物語を渡すというところに特化し、これで完成というゴールがないので狭く深いという点で「沼」に似ています。読み聞かせの講座などをしていても、奥が深いんですねという感想をもらうことがあります。

 けれど「沼」は自分の楽しみと共にあり自分だけではまるものです。私たちの活動は自分も楽しくないと続きませんが、聞き手がいないと成り立ちません。自分の楽しみに留まるだけだけでなく聞き手と一緒に作り上げるため「沼」ではないと感じています。自己満足や押しつけになっては本末転倒だからです。それでも「沼」のように惚れ込んでいる部分は必要だと感じています。それは語ること自体ではなく物語に対する信頼感ともいえるものではないかと考えています。夢中になっているとか好きという言い方でもいいかもしれません。物語を楽しんだ体験が語り手の栄養になるのは間違いないと感じています。