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絵を楽しむ

 絵本の読み聞かせにモニターを使っているという話を聞いて、コロナ禍で閉館していた美術館がインターネットを介して収蔵している絵を公開した取り組みを思い出しました。ロックダウンが起きている段階でメトロポリタン美術館などが絵を公開したのは心が沈みがちな時期に希望が持てて好感を持ちました。けれど美術館や美術展へ実際に足を運んだ時の心を掴まれる感じは持てませんでした。そして実物を見ることがどれだけ豊かなことなのかを実感しました。

 絵本は絵本を作るために絵が描かれています。原画もありますが絵本が実物です。そして絵本は絵が物語っています。モニター越しでは伝わらないものがあると感じます。最近、マリー・ホール・エッツの『わたしとあそんで』を読み聞かせで聞きました。主人公の女の子の白いワンピースがとても印象的で絵本の世界にすっと引き込まれました。どうしてこんなに白さが印象に残るのか不思議になって改めて手にとってじっくり見てみました。思ったより女の子の顔や手足の色がしっかりしていて、手元で見ると色を塗ったタッチまでわかりました。モニターで拡大すると手元で見る時に近い感じになり手足の色やタッチが見えるかもしれませんが、白いワンピースが際立つ感じはモニター越しでは伝わらないだろうと思いました。

 モニターを通すことに関しては、色や質感の再現が難しいことはよく言われています。ネットショッピングでも使用するモニターによって実物と色が違う場合があると但書がついているくらいです。けれど問題はそこだけでなく、絵の場合サイズ感が重要なのだと思います。絵本は仕上がりのサイズを意識して絵が描かれています。作者の許諾を得て出版社が作る大型絵本でさえ、大きくしたために間が抜けたり味わいが変わったりします。絵本自体大勢で遠くから眺めることを前提に作られている訳ではありません。絵本の魅力は絵を楽しむことにもあります。そして簡単に実物を手に取ることができる絵本をもっと大切にしていってもいいのかもしれないと思います。