お約束の使い方

 語り手によって気持ちよく語らせてくれる聞き手のタイプが違うと感じています。けれどいろいろな聞き方のスタイルがあってもいいと考えています。そこで私たちがストーリーテリングをする際、子どもたちにお約束としてお願いしているのは「おはなし が始まったら口を閉じてね」と「おしまいと言ったら拍手してね」の二つです。語り手は聞き手の目を見ながら語っていますが、子どもの聞き手の場合語り手の目を見ようとするのは聞く意志がある時だと感じています。「それからどうなるの」と聞き手が思えば思うほど視線が強くなっていきます。そして視線が合わない子どもは物語の中に留まっていないと感じています。聞きたくないという意思表示のこともありますが、自分も一緒に物語の中に入ることがわかっていないために物語に入りそびれていたり、集中が途切れて物語から途中で出てしまったりという聞き慣れないために視線が合わない場合もあります。ストーリーテリングをする上で視線が合うことは重要なことですし、視線を合わせたいと考えています。けれど視線が合うことをルールに取り入れようとは思っていません。子どもたちがどこを見ていいのか迷っている訳ではないからです。

 お約束は子どもたちが物語に入る最小限の手助けだと考えています。ストーリーテリング の場合、親子で絵本を楽しむ時のように思い浮かんだことをすぐ言葉にしていると物語の展開についていけなくなりますし、一緒に聴いている子どもたちの集中の妨げにもなります。聞くことに集中できるように口を閉じて欲しいのです。そして拍手は物語の中から現実に戻ってくる合図になります。このようにお約束は気持ちよく聞けるように手助けするものとして使うことに意義があると感じています。そして語り手がこの点を意識することで一緒に物語の中に行くことが間接的に伝わるのではないかと考えています。