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物語を丸ごと

 家庭文庫の様に聞き手が固定されたところで語ってこなかったせいか、聞き手がストーリーテリングに慣れることも語る目的のひとつと感じています。聞き慣れないと物語をうまく受け取れないからです。けれど物語を受け取ることは、ストーリーテリングでしか行えないことではありません。実際ストーリーテリング を初めて聞くという集団が全てうまく受け取れない訳ではないからです。

 集団で物語を受け取るには、集団で物語を聞くことに慣れていることが重要です。1人で聞く時と集団で聞く時の違いがわかっていないとうまくいきません。自分の話し声が物語の進行の邪魔になるということは、集団で聞く体験を積むうちに気がつき、口を閉じることが身につくものだと考えています。そのため集団で読み聞かせをたっぷり楽しんできていると、ストーリーテリング を初めて聞いても比較的スムーズに物語を受け取ることができると感じています。また物語を渡す側から口を閉じるよう言葉で働きかけるより、口を閉じた方が聞きやすいことを体験的に知っていて口を閉じる方が聞くことへの集中が高まると感じています。

 また聞いてきた読み聞かせの内容も物語を受け取る力に反映されると考えています。参加型の絵本で一緒に声を出したり身体を動かしたりして楽しむものや、読み手からの問いかけに応えることも楽しみの一部だったりすると、言葉を覚えたり言葉のやり取りを覚えるといった物語を受け取る以外の力がついていきます。これも大切な力ですが、物語を受け取る力が伸びるものではありません。物語を丸ごと受け取ってこそ楽しめる絵本を集団で読んでもらうことで物語を受け取る力がつくのだと考えています。私たちが読み聞かせとストーリーテリングは同じと考える理由はこの物語を丸ごと受け取ることで楽しめる絵本を使っているからこその発想です。物語を丸ごとということが読み聞かせでも提供できれば、ストーリーテリングにスムーズに移行できるのではないかと考えています。