聞き手に磨かれる

 ストーリーテリングの語り手は、聞き手に聞いてもらうことで語り手になっていきます。物語を伝えるということは、一方的に語り手が物語を渡すこととは違います。聞き手が物語を受け取る息遣いを感じながら語ります。そのためこちらが予想したような形ではなく受け取られて、戸惑うこともあります。ですから新しく覚えた話は子どもに5回聞いてもらって完成というのはどう受け取られるかの確認でもあると考えています。

 またどういう聞き手に語っているかで語り方に特徴が出るというのも一方的に語っていないからです。おとなの集団に語ることがメインの人と子どもの集団に語ることがメインの人とでは語り方が違ってきます。子どもの集団がメインでも家庭文庫のような同じメンバーで聞き慣れている集団に語っているのと初めてストーリーテリングを聞く集団にばかり語っているのかでも違います。加えて集団の大きさにも左右されます。20人程度の聞き手がメインの人と50人以上の聞き手がメインの人では語り方が違ってきます。ストーリーテリングは語り手と聞き手で作るため癖がつく感じなのです。相手に合わせて語り方を変えることは可能ですが、どこで語ることが多いのかがにじみ出てくる気がしています。

 聞き手の影響を受けることで語り方の癖がつくことを考えると、聞き手を変えてみることも語り手の勉強になります。語り慣れてくると物語を渡すことが習慣化してくるのであまり意識に上らないものですが、聞き手を変えると渡す感覚を意識することになります。聞き手がいてこそのストーリーテリングだということを忘れないようにしたいと考えています。