振り返ると

 ストーリーテリングに出会って物語を丸ごと伝えることに長いこと取り組んでいますが、私自身は子ども時代にストーリーテリングを聞いたことがありません。では、いつ物語を丸ごと受け取ることの楽しさを知ったのか思い返してみると、自分で読むようになってからなのではないかと思います。これは自覚したのはと言い換えてもいいのかもしれません。自分で読むようになって物語の虜になったという感じです。

 入り口はやはり絵本の読み聞かせだったように思います。私の育った時代は今ほど親が熱心に読み聞かせに取り組んでいる時代ではありませんでした。私の母は読書好きだったこともあり、子どもがまだ字が読めないから代わりに読んであげるというスタンスで、子どもがひとりで絵本を手に取っていたら本人に任せる感じでした。文字が読めるよう絵本で教えられることはありませんでしたし、読めることを評価されませんでしたが、1人で本を見ていることは尊重されました。そのため読んでもらったり自分で眺めたりしながら、いつの間にか読めるようになっていたというのが実感です。

 ただ絵本を楽しんでいた時はさほど物語を受け取っているという感覚はなかったように思います。私にとって物語を実感したのは岩波子どもの本を読むようになってからでした。その当時は知りませんでしたが岩波子どもの本には『ちいさいおうち』や『こねこのぴっち』など絵本として出版されたものが含まれています。絵本かどうかではなく自分で読んだということが物語を丸ごと受け取る体験になったのだと思います。読書はこの物語を丸ごと受け取れるかどうか初期の段階では非常に重要です。読み通してこそおもしろさが伝わるものだということがわからなければ活字を追うことが苦行になってしまいます。

 そしてストーリーテリングはこの丸ごと受け取ることの楽しさを活字を追わずに体験できるところが魅力なのだと思います。私がこれほどストーリーテリングに魅了されたのは、私が読み始めの頃に感じていた物語の魅力をストーリーテリングが思い起こさせるからだと感じています。ストーリーテリングの主役は物語で、物語より語り手が目立つストーリーテリングをしないのは、出会って欲しいのは物語だからだと改めて思います。