· 

語り手の栄養

 私にとって読書は日常の一部で生活の中に溶け込んでいますが、だからといっていつも同じ感じで読めているわけではありません。毎日コツコツというより気が向いたら一気に読む感じで読書量にむらがあります。そして読めない日というのもあります。活字を追っても目が滑る感じで内容が頭に入ってこないのです。こんな時は無理して読まないことにしています。私にとって読書は楽しいことです。手前味噌ですが楽しいことであり続けているのは無理しないからかもしれないと思います。

 そして楽しいことだと信じて疑わないことが語り手としての基盤になると考えています。子どもたちは本能的に相手が何を考えているのかを察知する能力が高いと感じています。ひとりでは生きられない形で生を受けるためでしょうか。幼い時ほど相手を察知する嗅覚が鋭く理屈ではなく相手を見極めます。ですから子どもたちは語り手が本気で物語を好ましく思って語っているのかどうかを感覚的に察知していると感じています。

 この考え方で注意が必要なのは楽しいと感じる対象が読み聞かせやストーリーテリングで今まさに読もうとしている物語だけに対する愛着ではないということです。読もうとする本そのものへの愛着が強く影響すると聞いている方はこの本が好きな読み手を受け取ることになります。これは親子で行う場合は人間関係を深めるので好ましいことですが、私たちの活動では目的からずれてしまいます。私たちは語り手を知ってもらいたいのではなく、物語を受け取って欲しいからです。私たちの活動で必要なのは読書の楽しみを知っていることであり物語というものに対する信頼と愛着を持っていることです。

 ですから私たち語り手は普段から自分自身が持っている物語への愛着を守り育てていくことが大事だと思います。自分自身が物語に浸ることも私たちにとっては欠かせないことだと感じています。