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絵本だからこそ

 アメリカの絵本には黄金時代と呼ばれる、時代を越えて支持された絵本が数多く出版された時期があります。ワンダ・ガアグに始まりマリー・ホール・エッツ、バージニア・リー・バートンなど今も私たちが愛読している絵本作家たちが綺羅星の如く現れた時代です。それらの絵本を読んでいると、この時代の作家は絵本を作りたかったことがよくわかります。絵本以外の媒体では表現できないことを表現しているという意識を持っていたのではないかと感じています。そして文章と絵が作り出す世界を大切にし子どもたちへの眼差しを感じることができます。アメリカの絵本の黄金時代は新しい移民層と共に生きる多民族・多文化社会の始まりの影響を受け、子どもたちに新しい社会の訪れを伝えることを模索したことにより生まれたと言われています。けれど強いメッセージ性を感じるものではなく物語絵本として成熟しているため時代を越えてきたのだと思います。どんな時代背景があったとしても、物語は物語になる際に具体性が昇華され物語の世界として再構成されると感じています。昔話が時代や地名などの具体的な表現を「むかしむかしあるところに」と普遍化してしまうのと同じです。

 また子どもたちにとって絵本が時代や今の空気感を映し出していることは、重要なことではないのだと思います。その絵本がおとなになっても記憶に残っていたら時代を映し出していたことに気づき懐かしさと共に思い出すかもしれません。けれどそれは今ではないのです。ですから大事なのは昔話のようにおとなも子どもも楽しめる物語としての完成度だと思います。そして絵本ですから絵が語っていることも欠かせません。絵本でなければ表現できない世界で、物語として満足のいくものというのが絵本を見る際に欠かせない視点だと考えています。