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わかったことを

 15年ほど前からアカペラの混声アンサンブルのグループに参加しています。特に音楽の素養があるわけではなかったのですが、見学に行ってあまりにも楽しそうで生き生きとしたアンサンブルに心惹かれ仲間に入れてもらったのです。そしてうかつにもその時は、楽しそうに歌うにはそれだけの技術が必要だということに思い至らなかったのです。はじめはあまりの技術の差に、注意されていること自体が理解できませんでした。歌うためには身体の使い方が大事なのですが、「支えて」とか「お腹を締めて」などの筋肉の使い方以前に姿勢を保つことができないのです。そして大きかったのは耳の問題です。こういう音色が欲しいと言われ、良い例と悪い例をお手本で歌ってもらってさえ聞き分けることができませんでした。どんなに丁寧に教えてもらっても、ちっともできるようにならない自分に嫌気がさし歌うことに向いていないとやめてしまおうと思ったことは一度や二度ではありません。けれど自分ができなくてもアンサンブルは美しく、音楽の力に魅了されていきました。どうしてやめてしまわなかったのか自分でも説明がつきませんが、グループの代表がアンサンブルをこよなく愛していて個々に合わせて飽くことなく改善点を教えてくれる姿と「できないことは要求しない」という言葉を信じたのだと思います。そして続けてきたからこそ「できないことは要求しない」という言葉が本当だったと感じています。できるようになると次の課題がちゃんとあるのです。また以前わからなかったアドバイスが新しい課題に取り組むことでようやく理論ではなく自分のものとして習得できたと感じるようになりました。そして恐ろしいことに答えは最初から伝えてもらっていて、それがちゃんと体得できていなかっただけのようだと最近思います。加えてまだこれからも変化していくのでしょうし、今が完成ではないのは経験から想像しています。

 これは私たちの活動でも同じことなのだと思います。答えがわかったと思った時が次の扉が開く時です。そして次々と扉を開けることでわかったことが自分のものになっていくのだと思います。答えを求めることは大事ですが説明できることがゴールではなく、体得したことを再現できることが私たちの活動でも求められていると感じるようになりました。