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物語の主人公と共に

 中国で新型のウィルスが猛威をふるっているそうだというニュースが聞こえてきて対岸の火事を見ているようだったコロナ禍があっという間に世界に広がり、日本でも様々な対応に追われ生活様式を変えながら凌いでいく日々が続いています。そしてまさか一年以上この状態になるとは巻き込まれた段階では思いもしませんでした。そんな中救急車を呼んでも搬送先が見つからずに命を落とすといった痛ましいニュースが増えています。

 この状態になって今更ながら私たちが当たり前と思ってきた日常生活は、誕生の現場も死の現場も切り離す形で営まれていることを意識しました。助産師さんが家庭にきて出産を手伝ってくれたり、死が日常の中にあり家族で看取ることが当たり前だった時代から、生も死も病院という特別な場所が引き受けてくれることを当たり前と感じる人が増えた時代に私たちは暮らしています。そのため搬送先が見つからないということがどれほど悲劇的なことかと私たちは感じます。あまりにも命の現場から離れすぎていて命の危うさや不確定さを忘れているのだと改めて思います。同じ病気でも助かる人と助からない人がいること、生命力と言われるような持って生まれた能力に差があることを忘れて暮らしてこれたことは、本当にありがたいことだったのだと思います。失ってみて初めてわかることがあるというのもよく言われることですが、まさしくそういった状況なのだと思います。

 私たちは生き物として生からも死からも自由にはなれません。けれど物語の主人公ではありませんがくよくよしたって始まらないのだと思います。物語の主人公たちも生からも死からも自由になれない中、前を向いて歩いています。不安を数えたらキリがありません。不安を育てるような時間を過ごさないようにするだけでも気持ちが違うのかなと思います。元気が出ない時どの物語の主人公と時間を過ごそうか考えるとちょっと気持ちが前向きになったりします。