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エリザベスは本の虫

 なんとなく気が滅入ることが多い昨今、何かぱあっと明るい気分を味わえる絵本があったかしらと考えています。腰を落ち着けて物語をじっくり読み込み物語に浸るには気持ちがさわさわして入り込めない時、絵本ならどうだろうと思ったのです。今まで明るい気分というお題で絵本を探したことはなかったかもしれないと思いつつ、読み聞かせに使おうとする絵本は気が滅入るような読後感のものを選ぶことはないなあとも思います。そもそも絵本に限らず子どもに渡す物語は基本的に希望が持てるものというか明るい方向を向いていることが大前提です。たとえ過酷な状況に追い込まれるとしても絶望のまま終わることはない作りになっている気がします。だからといって安易なハッピーエンドは説得力がなく物語に入り込めないものです。子どもの本は特に違和感の入り込まない作りが求められるので説得力はとても大事なものです。

 そんなことを考えながら思い起こしてみて今読み返したいと思った絵本は『エリザベスは本の虫」サラ・スチュワート/作 デイビッド・スモール/絵 アスラン書房 です。ぱあっと明るい気分になるという感じではないですが、主人公のエリザベスのぶれなさ加減に惚れ惚れします。エリザベスを本好きという言葉で表現するのはぴったりではないと感じるくらいののめり込みかたをしています。エリザベスにとって生きることと本を読むことは同義なのではと思わせるくらいなのです。こうやって説明していると重い内容のように伝わりそうですが、エリザベスが生まれた時から晩年までを印象的に絵で切り取り短い言葉で的確に飄々と表現されているので自然に納得させられていきます。何より好きなのはエリザベスの行動が行動として書かれているだけで評価されていないところです。そのためエリザベスが一人の人間として強く印象に残ります。そして絵も文章と一致していてメインの絵に額縁のように装飾性のある絵が添えられているので、じっくり眺めるのも楽しい作りです。この作りのため読み聞かせには使わない絵本ですが、自分で読むにはぴったりです。一貫して一つのことにのめり込むばかりか、のめり込んでいることすら気がついていない感じがするエリザベスの様子は、くよくよすることが馬鹿らしいと思わせてくれます。いっそ清々しいエリザベスの本の虫加減に元気をもらいました。