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草木鳥鳥文様

 福音館書店より今年の3月に刊行された『草木鳥鳥文様』の展示会が教文館ナルニア国で開かれています。本来なら原画展というところタイトルが「ユカワアツコ『草木鳥鳥文様』展」となっているのは、この作品の絵が大小様々な古い抽斗(ひきだし)に描かれているためだと思います。写真で見ましたが、会場の壁一面を箱が埋めていて見たことのない印象的な展示です。

 『草木鳥鳥文様』梨木 香歩/文 ユカワ アツコ/ 絵 長島 有里枝 /写真 は福音館書店の月刊誌『母の友』に連載されていたものをまとめたものですが、余白を含めて美しい仕上がりで雑誌で見るよりずっとインパクトがあります。函入りクロス装で本体の表紙には箔押しで鳥のイラストが描かれているという美しい造本も好みで本屋さんで見かけて迷わず購入しました。梨木さんによる草木と鳥を題材にしたエッセイを受けて ユカワさんが古い抽斗の中に絵を描き、その抽斗を長嶋さんが街に連れ出し撮影したという手の込んだ作りが、お互いを引き立て独特の世界観が形作られています。言葉と絵と写真と一見調和しそうもない組み合わせですが、この三者の組み合わせでなければ生まれないであろうと思わせる作品です。後書きで梨木さんが「これは新しい形のバードウォッチングではないかと思った。アウトドアとは無関係の、ごく個人的な内界を覗き込む形の。」と書いていらっしゃいますが、三者の感性が絡み合って逆に個々の読み手の内面に訴えかけてくるものになっているのかもしれません。

 今回展示されている抽斗原画はナルニア国での展示会の後、京都で販売されるため、これらの作品が一堂に会するのは今回が最初で最後となることと、ユカワさんの許可をいただいて撮影がフリーということで見にいきたいという気持ちが膨らむ内容です。会期末は10月19日なので以前のように気軽に行ける状況になることを期待しようと思います。ただ36個の抽斗をまとめてみるのも魅力的ですが、この作品は本でみる美しさも格別です。本として生まれることがどういうことなのかということを改めて考えています。