聞き手の知識

 私たちは物語を渡すために継続して子どもたちに関わろうとしています。子どもたちは聞き慣れることで物語を受け取ることが容易になるので、物語の長さを気にせずに内容で子どもたちに物語を渡すことができるからです。

 ただ子どもたちに渡す際に気にしなければいけないのは長さだけではありません。物語の長さは子どもの集中力がどのくらい続くのかが問題なのですが、もうひとつ問題になるのは物語を楽しむ前提としてある程度の知識を必要とするものは聞き手を選ぶということです。集中力が続いていても伝わらないものもあるからです。単純に善悪で役割が分担されているものは、具体的な知識を必要としません。例えば「赤ずきん」のおおかみなどに代表される悪役です。悪いやつということさえ伝わればおおかみの生息地や姿などの具体的な知識は必要ありません。これはおおかみに限らず、領主でも魔女でも悪魔でも同じです。昔話がストーリーテリングでよく使われるのは、役割分担がすっきりしていてわかりやすい悪役が登場するからだと考えています。逆に悪役が出てこない話だと設定を理解していないとわかりにくいことがあります。ファージョンの「お嬢さまとバラ」などはその典型だと思います。同じ子どもとして登場するのですが小作人の子どもと領主の娘のお嬢さまはある程度の知識がないとなぜそういう行動になるのかがわかりにくいと思います。自分で読むなら、もし引っ掛かりを感じても先に進むのをやめて考えることができますが、ストーリーテリングだと止まれないので物語の展開についていけなくなることがあるからです。そのため前提として知識が必要な物語は聞き手の状況を知る必要があります。

 そしてこの感覚は、これから覚えようとする物語を選ぶ時に思い出すと選びやすくなると感じています。よく子どもに伝わるのか、子どもが知らないものが出てきても大丈夫かという質問をもらいますが、具体的に知識がなければ伝わらないものばかりではないのです。ですから言葉で説明を加えたり、説明するつもりでイメージを必要以上に膨らませると、物語として楽しめないものになってしまいます。何が重要なのかを知ることもストーリーテリングをする上で大事だと思います。