イメージの力

 言葉からイメージすることはストーリーテリングをする際に欠かせませんが、実は歌を歌う時にも必要とされるものです。歌を音楽として成立させるには音も言葉もおざなりにできません。でも実際歌っていると声を出すことに気を取られ、メロディーを再現することに集中すると言葉としてうまく聞き取れないような言い方になってしまいがちです。そのため私には歌詞という言葉を紡ぐのにメロディーという制限がかかる感じがします。私が歌っているグループの代表は、歌を音楽として成立させることにかけて驚くほど自在です。代表は「この曲はこう歌いたい」とか「こう歌った方がしっくりくる」と実際歌ってみせてくれるのですが、メロディーと言葉が引き立て合い心地良い音楽になり自分で歌う時と何が違うのだろうと思うことが多いです。ストーリーテリングと同様に音楽も聞き手が受け取ることで完成するのだとその度に思います。

 そして音楽として成立させるための方法として歌詞からイメージすることが求められます。歌の中でも英語などの外国語の歌は一つの音に一つの単語が当てはめられることも多く、音の動きは文章と連動する感じがします。けれど日本語の歌は一つの音に単語ではなく一つの言語音が当てられることが多いので、歌い方によっては文字を読み始めた子どものように一つ一つの言語音を確かめながら言っているようになってしまいます。それを打開するためにイメージが使われるのだと思います。歌詞を膨らませてより豊かな情景描写や心理描写を求めるというより、ストーリーテリングでイメージを固めるように歌詞をちゃんと伝えるためのイメージです。この辺りもストーリーテリングに近いと感じます。

 この様にストーリーテリングに限らず人に伝えるにはイメージする力が必要なのだと改めて思います。大事なのは伝えているのだという自覚と何を伝えているのかを感じることなのだと思います。そして何を伝えているのかを支えているのが伝える側のイメージなのかもしれないと感じています。ストーリーテリングを学び始めた時に言われた「音楽でも美術でも美しいものに積極的に触れなさい」というアドバイスは自分のイメージする力を鍛えるためのものでもあったのだと今思います。