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物語を渡すこと

 語り手であり読み手である私たちが物語を差し出し、聞き手はそれを受け取るというのが、私たちのおはなしの会のあり様です。「今さら何を当たり前のことをいうのだろう。読み聞かせや、ストーリーテリングってそういうものでしょう。」という声が聞こえてくるようです。けれどこれが意外と難しいのだと勉強会をしていて思います。

 特に読み聞かせは誰でも読めるので誰でもすぐできると思われがちです。そのため読み聞かせのボランティアを募集する側は読み手の確保に心を砕いても読み聞かせの内容に関しては無頓着なことが多いと感じています。読み聞かせをする場を提供することと読み手を繋ぐことだけが読み聞かせが円滑に進む方法だと思われている印象です。そのため読み聞かせを始める人たちは個人の裁量にされるので、読む絵本さえ決めればなんとかなるかもしれないと子どもたちが喜ぶ絵本を探すこととなり、読み聞かせに向く本のリストや図書館の講座などに手がかりを求めます。すると読み聞かせを担当する日が既に決まっていたりするので、手っ取り早く具体的な絵本を紹介してほしいということになります。こういった求めでよく聞くのは「盛り上がる絵本」とか「受ける絵本」という言葉です。読み手にとって自分が読んだことで子どもたちが笑ったり声をあげたりして反応してくれることは手応えを感じ自分の読み聞かせを肯定されたと思えることです。けれど読み聞かせをする側が子どもたちの反応を求めることばかりを目指すと物語を渡すことからずれていってしまいます。もちろん子どもたちが反応することを織り込んで作られている絵本もあります。そういった絵本で反応を促すのは問題がありませんが、そういった作りの本ではなくとも反応を求める癖がつくのが問題です。

 逆に読み聞かせをしたいのは読みたい絵本があるからという場合もうまく渡せないことがあります。それは思い定めた絵本が読み手の琴線に触れていることが多いからです。その場合読み聞かせをする時に無意識に自分が感銘を受けたことまで伝えようとしてしまいます。すると読み手の色が強く現れて本来の物語の姿が変化してしまいます。親子の場合物語に読み手の色がつくことは望ましいことなのですが、集団の場合は全員で楽しむことができなくなることが多いです。

 この様に「読み聞かせ=物語を渡す」にならないことは簡単に起こります。物語を物語のまま渡すためには物語を知ることが大事で物語をたくさん読むことがまず第一歩です。加えて語り手の場合はどう聞こえるかを知っていることが大前提です。聞き手を経験することが大事なのはそのためです。そしてそのために私たちは勉強会をし続けています。