聞き所

 物語を渡す際、語り手や読み手が物語の聞き所を知っていると語り方や読み方が変わると感じています。そのためこの聞き所がどこかが分かっているかどうかが、語り手に求められるものです。聞き所には二種類あって、一つは物語の骨格を感じていることです。物語がきちんと流れているという言い方をすることもあります。特に長い物語になればなるほど骨格を捉えているかが重要になります。例えばストーリーテリングで「抜いて語る場面」とか「聞き手を休ませる場面」などと表現されますがこれは骨格を目立たせる技術です。骨格を聞き手に感じてもらうには大事なところをより強調するというよりは、骨格以外はイメージを強く意識しません。どの場面もイメージとして捉えていますが解析度が違う、もしくは動かし方を鈍くするといった感じです。

 もう一種類は、活字ではなく音で伝えていることを意識することです。耳で聞くからこそ映える言葉というのがありますし、聞くからこそ生きるフレーズというのがあります。語り手になると、どう声に出そうか考える人は多いですが、どう聞こえるかを意識していることが意外と少ない気がします。どう言おうか考えることとどう聞こえるかを考えることは同じことのようですが実際は違います。自分が想像したように聞こえないということはよくあることです。実は人が聞いている自分の声は自分だけが聞くことができません。自分で聞くときは外に出ている音だけではなく自分の中に響いている音も聞こえているからです。録音された自分の声を聞いて自分が思っている声と違って驚くことがあるのはそのためです。ですからどう聞こえているのかを感じることが重要です。中でも繰り返しや名前の羅列など、黙読している時にはくどいと感じるような部分が聞きどころになっていたりするので注意が必要です。物語を聞きなれてくるとこの感覚は自然に身につきます。私たちがいつも聞いて確かめているのはこの聞き所の確認でもあるのだと考えています。