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繰り返し読むこと

 同じ物語を繰り返し読むことが好きな人と苦手な人がいるのだと思います。私自身は気に入ったら繰り返し読むことが読書することだと自分で読むようになった時から思っていたので、繰り返し読むことが苦手な人の存在をあまり意識したことがありませんでした。けれど講座や勉強会でいろいろな人と話をしていると、繰り返し読むことが苦手な人というのが一定程度いるような気がします。読書好きの中でも次々新しい本を読むことが好きな人という感じです。これは好みの問題ではありますが、語り手や読み手ををするなら、繰り返し読むことに慣れることも必要だと考えています。

 ただその時に欲しいのは細部まで読み込む力ではありません。そのため繰り返し読むことが好きなタイプでも語り手や読み手に欲しい繰り返しの読み方をしていないこともあります。語り手が身につけたいのは、毎回新鮮な気持ちで読むことで、例え100回目だとしても新しい話として物語に向き合う姿勢です。大事なのは結論を知っていることではなく物語の過程の骨格を感じることが目的だからです。繰り返し読むことで、細部に目を奪われることなく骨格を感じることができると思います。はじめは目新しくて心惹かれた登場人物や風景なども繰り返すうちに当たり前のものとして感じるようになります。その当たり前のものとして感じたところからが物語のスタートなのです。物語が展開する設定はあくまで設定でそこが安定せずに驚きを持って語られると聞き手はその物語に入ることができないと考えています。ストーリーテリングは文章を覚えるのではなく100回読もうというのもこのことを指しているのだと思います。物語を繰り返し読むことが語り手や読み手には必要なことだと思います。

 蛇足ですが、絵本の場合できれば繰り返し同じ絵本を読んでもらうというのが理想です。絵だけ見て文章を聞くという状態が絵本を楽しむ本来の形だからです。とはいってもそういった機会を持つのは難しいので、繰り返し絵読みをするというのが現実的です。絵読みをするというと何が描いてあるのか細かいところを見ることだと思う人がいますが、場面場面で止めずに絵巻物を広げていく感じが読み手の絵読みの仕方です。パッと見て何が目に入るのか、そして次のページにどうつながるのかを感じていくのが読み手にとって大事です。そして繰り返し見ることで物語の流れを感じるようになると思います。