私は物語を語ること自体に苦手意識はありませんが、語ることが好きかと考えると好きではないと思います。物語を渡すために必要だから語っているのであって私にとって語ることが重要なわけではないからです。私が好きなのは物語で、語ろうと思う物語そのものが好きなのです。重箱の隅をつついた様なことと感じられる方もいらっしゃるかもしれませんが、語り手にとってこの違いは大きいと感じています。以前からお伝えしている物語が主役の語り方というのは語ることが好きということより物語自体が好きということなのだと思います。そして語り手が主役の語り方というのが語ることが好きということだと考えています。語り手が主役の語り方が間違っているということではありません。例えば俳優や声優が語ったものなどは語り手が主役だと思います。たとえ物語を読んでいる場合でもこの人の声が聞きたい、この人の声で聞きたいというものだからです。
そうは言っても、物語が主役の語り方でもこの人が語るこの物語が聞きたいということがあります。これはその語り手が伝えてくれるイメージが聞き手が求める物語の姿と一致していて満足感が高いということだと捉えています。この人の語りを聞きたいというのは語り手が主役の時の様な語り手の声や雰囲気ではないと思います。物語と語り手の相性が合うことを柄が合うという言い方をするので語り手の持つ雰囲気などと誤解されがちですが、語り手にとってイメージを作りやすく物語の世界観を構築しやすいものが柄に合うということだと考えています。好きだという物語を増やしていくことで物語自体が好きだと思えることが語り手にとって必要な感覚だと思います。