自分を信じる

 語る際、語り手は頼れるのは自分だけなので自分でしっかり立っている必要があります。自分をことさら大きく見せようとする必要はありませんが不安げに語られるとストーリーテリング自体が不安定になります。物語を支えるのは自分のイメージなので自分を信じることが欠かせないのだと思います。ただこの感覚はなかなか自覚できませんでした。意識が自分に向くとバランスが崩れて己を主張するようなことになりかねないからです。イメージに集中するというのは語っている物語を損なわずに自分がしっかり立って物語を支えることでもあります。そしてこの物語を支えることと自分を信じることは深く結びついていると考えています。

 ストーリーテリングを始めたばかりの頃、テキストが手放せずに手元に置いて語れたらいいと思ったことがありました。けれど参加した勉強会である語り手が途中で止まってしまいテキストを確認するというストーリーテリングを聞きました。その時止まってしまったことよりテキストを見ることの方が物語を伝えるということに関しては影響が大きいことを身をもって知りました。語り手が止まってしまい言葉が出てこなくて沈黙していても聞き手は物語の中に留まって待っていられます。けれどテキストを取り出して確認されると聞き手は物語の中に留まっていられずに一旦物語の外に出ることになります。勉強会は聞き手がおとなばかりですから物語の途中で仕切り直されてもついていけますが物語としては台無しだと感じました。先生の講評も勉強会なので仕方がないけれど子どもに語る時はテキストを取り出すのは禁止というものでした。聞き手を物語の中に誘ったらおしまいまで物語の中に留まっていられることを保証することも語り手の務めだと学びました。

 そのためにはイメージと言葉を強く結びつけるための練習だけでなく、自分を信じることも欠かせないと感じています。大丈夫だと自分が思うことが物語の安定感につながります。練習時は正確さを追求しますが、本番には本番の心構えが必要です。物語の力を信じ自分を信じることが語り手には必要です。