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繰り返し楽しむこと

 私たちは保育園や小学校での出張おはなしの会をしています。私たちは基本的におはなしの会はイベントではなく日常のものだと考えています。そのため単発ではなく複数回セットで出張おはなしの会をお引き受けしています。それでも年間5回から10回程度のおはなしの会なので、同じ物語を繰り返しすることに遠慮がでます。せっかくなら違う物語を届けたいと、おとなの事情が混じるからです。

 けれど最近の子どもたちの傾向として同じ物語を繰り返し楽しむという経験が減っているように思います。そのため子どもたちは同じ話を繰り返し楽しむことを知らないと感じています。タイトルを聞いて「知っている」とか「またぁ」という声が子どもたちから出ることは知っている物語をまた聞くことを歓迎している言葉だと教わりましたが、どうも様変わりしていると感じています。以前は子どもたちが家庭で絵本はそれこそ暗記するほど繰り返し繰り返し読んでもらって楽しむことは珍しいことではありませんでした。今は家庭で親が読み聞かせをしなくても子どもだけで楽しめる動画などの選択肢が増え絵本の読み聞かせに使われていた時間を侵食しています。繰り返し読む楽しみを知らない子が増えてきた要因はこういった環境の変化にあるのではないかと考えています。けれどこの繰り返しが実は物語を受け取る力を育てます。幼児期の絵本の読み聞かせで大事なのは同じ話を楽しむことであり、そういう経験も読み聞かせの役割のひとつと考えています。何度聞いてもおもしろいという体験が物語の楽しみ方を身につけ物語を見極める目を育て、ひいては自分で本を読む芽になっていくからです。

 もちろんそれだけでなく、絵本は言葉を育て感性を育て読み手と共感し合うことで一体感を感じるなどの様々な効用が期待できます。絵本を楽しむ副産物として様々な効用が期待できるからこそ読み聞かせをする私たちは自分たちの目的をしっかり自覚する必要があると考えています。子どもたちを取り巻く環境が変化してきたことを考えると私たちは同じ物語を渡すことに遠慮はいらないのだと思います。同じ物語を繰り返し楽しむことは読書を楽しむ子どもたちになって欲しいという私たちの目的の達成に有効な手段だからです。