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エビデンスと赤ちゃん

 『もいもい』市原 淳/絵 開 一夫/監修 ディスカヴァー・トゥエンティワン 出版 という赤ちゃん絵本が子育て世代のお母さんたちに注目されているなあと感じています。監修の開 一夫教授は赤ちゃん学の研究者で赤ちゃんについて発達メカニズムの解明などを研究されています。赤ちゃん学は比較的新しい研究分野で開教授は人工知能の研究から人間の子どもが1年もすればあっという間に歩くことや話すことができるようになるメカニズムに興味を持ち20年ほど前から人間の知能の研究を始められ赤ちゃん学の研究者になられた方です。そして研究室に赤ちゃんや子どもを招き実際データをとって研究を進めてきた結果を反映させたのが『もいもい』です。実際赤ちゃんがどう見ているのかや動作を精密に計測してこられているので、どんな絵が子どもの視線を釘付けにするのかをデータで洗い出すことでよりふさわしいものという結果を導き出しています。そして子どもは顔のようなものを注視するということは既に解明されているので、絵本を作る際、画家に出した条件は顔のようなものは書かないことだったそうです。そして出来上がった絵を実験に協力してくれる子たちに見せてデータを取り最終的に絵本になったのが市原さんの絵だったそうです。この絵本のキャッチフレーズとなっている「あかちゃんといっしょに作ったあかちゃんのための絵本」というのはこの経緯を表しています。

 今世の中は科学的に証明されているということとしてエビデンスがあることを高く評価します。この赤ちゃん学もそう言った意味で今までなんとなく感じていたことを実証していくという点でとても興味深い研究だと思います。けれど赤ちゃんを育てるために赤ちゃん学を学ぶという形では子どもは育たないと感じています。赤ちゃんが育つメカニズムが全て解明されているわけではなく個体差もあり全て解明されることはないと想像するからです。開教授も『もいもい』は全ての赤ちゃんが喜ぶわけではないと明言しています。複雑で様々な要因が絡んでいる赤ちゃんの育ちの研究に取り組むことは人間の未来にとって必要なことだと思います。けれど今子育てしている人にとっての教科書にはならないのだと思います。

 実際こう言った研究を元にしなくとも『ごぶごぶ ごぼごぼ』駒形 克己 /作 福音館書店 などは作家のセンスだけで同じような結果をもたらす作品を『もいもい』が出版される20年ほど前に生み出しています。そしてどちらも音で絵本を構成しており同じような作りになっていることはとても興味深いと思います。子育ては科学的に証明されていなくても経験則が支えてきた部分が大きいのだと思います。そしてどれだけ科学が発達しても科学だけでは支えられないのかもしれません。