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プンク マインチャ

 『プンク マインチャ』大塚 勇三/再話 秋野 亥左牟/画 福音館書店 は、ネパールの昔話を絵本にした作品です。月刊で発行されるこどものともで発行されたのが1968年で、1992年に表紙などのデザインを変更しハードカバーの絵本として出版されました。1992年版の表紙は金色でドーン・チョーレヤが象徴的に描かれていて物語を想像させますが、私は子ども時代に親しんだこどものとも版の表紙のほうが好きです。

 『プンク マインチャ』は死が包み隠さず語られる内容と強烈な印象を残す個性的な秋野さんの絵と相まって大人の目から見て残酷だという評価を受けやすい絵本です。けれど実際子ども時代『プンク マインチャ』に魅了された私の目には怖い話という印象はありません。当時もどうしてそんなに心惹かれたのかうまく説明できませんが、怖いもの見たさに近い感じだったのかもしれません。今まで見たことのない絵に一気に物語の世界へ引き込まれた感じなのです。特にこどものとも版の表紙に大きく描かれていたドーン・チョーレヤが好きでした。プンクを助けてその先の道筋を示して途中で死んでしまうのですが、ドーン・チョーレヤを感じたくて読んでいたといってもいいかもしれません。狐と山羊の二つ頭を持つ山羊という姿と圧倒的な存在感はその後に起こることを軽々しく自分の生活している世界に持ち込むことを許さない感じでした。ドーン・チョーレヤのいる世界でしか起こらないという別世界との境界線をドーン・チョーレヤが示してくれたのだと思います。

 今回読み聞かせで聞いたのですが、ドーン・チョーレヤだけでなく絵が別世界を感じさせてくれること、伝統的なデザインを取り入れた表現でネパールを感じさせるものだということに改めて感心しました。経歴を調べてみると秋野亥左牟さん(1935-2011)は、京都に生まれ、藝大を中退。20代後半にインドで大学講師をしていたお母さんに呼ばれ、インド・ネパールで6年を過ごされています。そしてなんとお母さんは秋野不矩さんなのだそうです。秋野不矩さんは絵本でしか知りませんでしたが女流日本画家として活躍されインドの大学に客員教授として招かれて以来、何度も足を運んでインドを描き続けたのだそうです。『きんいろのしか』もそんな背景があってこその作品だったのかもしれません。昔話を支える揺るぎない世界観を描くには昔話の生まれた土地を肌で感じていないと難しいのかもしれないと思いました。