繰り返し読む

 同じ本を繰り返し読んで物語に浸ることは、子ども時代の特権だと思います。子ども時代は本を読むノルマがある訳でも、読まなければならない参考図書などに追われているわけでもないので、繰り返し読むことを妨げる要因がないからです。

 そしてストーリーテリングを語るには同じ物語を繰り返し読むことが求められます。子ども時代に本が好きだった人がストーリーテリングに取り組むことが多いのは、この繰り返し読む習慣を持っていて、繰り返し読むことを厭わないからだと考えています。

 ただ同じ繰り返し読むと言っても自分が物語に浸るために読むこととストーリーテリングで物語を伝えるために読むことは同じではないと感じています。私の感覚では、自分が物語に浸るときは物語の枝葉を茂らせる感じ、ストーリーテリングは物語の幹をしっかり見る感じです。これは読む際に物語の途中で物語の進行を止めるか止めないかで違いが生まれるのではないかと思います。自分で読むときは途中で止まることも、気になったら前に戻ることも可能です。そのため主人公以外の登場人物の視点で物語を眺めたり、時代背景に思いを寄せたり、綴られている言葉をヒントに物語を膨らませることも楽しみとなります。繰り返し読むことで物語は深まり行間を含め大きな木に成長する感じがしています。

 一方ストーリーテリングのために繰り返し読む時は、物語の流れを感じています。ストーリーテリングを始めた頃言われた「覚えるのではなく100回声に出して読んでみる」という教えは物語の流れを身体に染み込ませるには最適なやり方です。何が物語の幹かということが体感できるからです。100回という回数が枝葉を落として物語の骨格を感じさせ幹を意識することができるようになるのだと思います。ストーリーテリングに取り組んでいるけれどうまくいかないと感じていらっしゃる方は、考えすぎないで騙されたと思って100回読んでみてください。きっと見えてくるものがあるのではないかと思います。その際の注意点は途中で止めないことです。慣れてくると場面ごとでも形になりますが、まずはタイトルを言ったらおしまいになるまで一気に読む癖をつけてください。