· 

つきをいる

 月刊絵本「こどものとも」79号『つきをいる』中国の民話 君島 久子/訳 瀬川 康男/画 福音館書店 を読み聞かせで聞きました。この絵本はハードカバーにはならずに月刊誌だけで出版された絵本ですが、復刻版として出版されたりしています。読み手の方は子ども時代にこの絵本が大好きで自分の本はボロボロなので復刻版で手に入れたとおっしゃっていました。この物語は東京子ども図書館の『おはなしのろうそく27』に入っていてストーリーテリングで聞いたことはありましたが絵本で見たのは初めてでした。

 この作品は1962年に出版されており、なんと瀬川さんの絵本処女作です。ロングセラーとして読み継がれている『いないいないばあ』松谷 みよ子/文 瀬川 康男/画 童心社より5年も前に描かれています。そして『つきをいる』が出版された次の年の1963年に『ふしぎなたけのこ』松野 正子/作 瀬川 康男/画 福音館書店が出版されていて瀬川さんの絵本作家としてのスタートは福音館書店だったのだと知りました。

 『つきをいる』は中国らしい壮大な昔話です。月の成り立ちの昔話でストーリーテリングで聞いた時も弓の名人ヤーラが山の上から弓を射るシーンが弓が飛んでいく音と共にとても印象的な物語です。そしてヤーラの妻のニーオがどこまでも伸びる自分の髪を使って作る網など目に浮かぶようなインパクトも動きもある場面が続きます。絵にすることが困難そうな物語を絵本で聞いたらどうなるのだろうと思いましたが、予想以上に物語として伝わってきました。

 これは偶然今回の読み手がこの物語を子ども時代に楽しんでいて熟知していたので力まずに物語の流れを自然に渡してくれたことと瀬川さんの絵の力量だと思いました。物語の性質上さすがにどうしてもこの絵本でという所まで絵が物語を支え見ているだけで物語に引き込まれる感じではありませんが、物語の印象を壊さずに物語を渡すことに徹することで絵本として成立させているのはさすがだと思います。瀬川さんだったらもっと書き込むことも可能ですがあえて白地にポイントとなる事やものだけを抽出して描くことで聞き手を物語の世界に入り込みやすくしてくれています。読みはじめの子どもたちが自分で読むのにちょうどいい感じの挿絵的な作りです。ストーリーテリングで語った方が躍動感がでて壮大さは増しますが、その壮大さに引きずられて物語のバランスを崩す語り手もいるのでこの絵本の方がバランスが取れて安心な部分もあると感じました。これだけの力量の絵がペーパーバックのままなのは残念です。ペーバーバックだとどうしても目に触れる確率が下がるので、読み始めの子どもたちが自分で読んでも楽しいこういう絵本こそハードカバーになって欲しいと思います。