· 

子どもの楽しみ方 おとなの楽しみ方

 おうちで読み聞かせをしようとする人も集団で読み聞かせをしようとする人も読む本を選ぶことを難しいと感じるのは、子どもとおとなでは絵本や物語の楽しみ方が違うからではないかと考えています。おとなは物語に限らず情報を取り入れる時は、無意識に自分の知識に照らし合わせて内容を吟味しているのだと思います。また理解できないことは調べて知識を補填したりしますし、自分の価値観が確立しているので批判的に読むこともあります。ですから物語を楽しむ場合もおとなはただ物語を受け入れるだけでなく、物語の中の時代背景や作者がどういう意図でその物語を作ったのかなど知識を付加しながら物語を捉えているような気がします。そのため物語とはいえ、物語の展開以上に語られる価値観に反応する傾向があります。

 一方子どもは、年齢が低ければ低いほど物語の中で起こることは知らないことの方が多く、語られる内容を鵜呑みにする傾向があります。それは物語の中で起こること自体を楽しんでいるからだと思います。物語の中で起こることに対して自分の価値観を持ち込まないため批判的に受け取ることはほとんどなく物語を物語として楽しんでいるのだと思います。そして実生活での経験を積むにつれておとなの楽しみ方になっていくのだと考えています。

 そしてこの楽しみ方の違いが子どもに絵本を選ぼうとした時に障害になって絵本を選びにくくしているような気がします。おとなが変だと思うところは子どもが気にならないところだったりすることはよくあります。またおとなが子どもに配慮したつもりで展開をぼかした作品がありますがその配慮のために物語の説得力が削がれ子どもが物語をうまく受け取れない作りになってしまったりします。特に最近は言葉の使い方に慎重さが欠かせません。そして差別的な言葉として問題視されるものが格段に増えている印象です。けれど物語では登場人物の行動に問題がある場合を除き単語にそれほど過敏になる必要はないのではないかと感じています。子どもの価値観に影響するほど子どもが物語だけで価値観を育んでいる訳ではないことと、単語より物語の展開に注目しているからだと思います。

 子どもたちに健やかに育ってほしいというのはおとなすべての願いでもあると思いますが、子どもたちを取り巻く環境のほんの一部分である絵本や物語に対して警戒や配慮はするのに、子どもたちが育つ環境の他の要素に関してはさほど気にされないことも多いのはなぜだろうと思います。まずは物語は物語としておとなは子どもの楽しみ方を知り、子どもに何が必要なのかを改めて考えると絵本や物語の何に子どもたちが惹かれているのかが分かりやすくなるのかもしれません。