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絵本の世界

 2020年6月、東京・立川駅北口にオープンした新街区「GREEN SPRINGS」に、美術館と子どもの遊び場を中心とする複合文化施設「PLAY!」があります。その中のPLAY! MUSEUM(プレイミュージアム)は、絵とことばがテーマの美術館で子どもから大人まで誰もが楽しめ、絵とことば、さまざまな体験を通じて、自由に感じて、発見できる場所だと告知されています。コロナ禍の影響でなかなか出かけられませんが、意欲的に有名な作家の作品を取り上げその選択も好みなので気になっていました。そんな中現在年間展示中の「ぐりとぐら しあわせの本」展の様子を最近写真で見ました。絵本の原画は展示をせず、来場者は絵本のページをめくる代わりに、自分自身がぐりとぐらとなって、四季折々の絵本の中を歩いていきます。ふしぎな出会いや冒険、すてきなもの、草花、そしておいしいもの。子どもたちは心を躍らせ、大人は懐かしい記憶と新たな発見を楽しむことができる展覧会だそうです。ぐりとぐらの帽子を被り小さな入り口をくぐって、ぐりとぐらの世界に入っていく作りはとても素敵です。そしてデザイナーなどのプロの力を見せつける魅力的な空間です。おおきなたまごの質感や光の当たり方まで計算し尽くされた感じで立体になった威力を感じます。けれどこれだけ手をかけて力を注がれているにもかかわらず絵本を読んだ時のような驚きは感じませんでした。そしてぐりとぐらを暗記するほど読んでもらっていたら違和感を感じるのではないかと思います。写真のせいかもしれませんがたまごがどうしても石に見えるのです。私にとってぐりとぐらのたまごはちょっと温かいようなざらっとした実際のたまごの大型版として捉えていたのだと写真を見て気がつきました。人間の想像力というか空想力って侮れないと自分でも驚いています。

 絵本は物語の世界として現実から切り離した世界を私たちに見せてくれます。その世界の中だからこそ生き生きとして本物になることも多いのだと思います。それを現実の世界に取り出すことの難しさを展覧会の写真から感じました。もちろん実物を見ずに評価するのは早計だと思います。様々なワークショップも組まれていて、より絵本の世界を広げようとしている試みは画期的だと思いますが、絵本を絵本として渡すからこそ楽しめることもあるということも忘れてはいけないと思いました。