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聞く文章と読む文章

 私たちは、読み聞かせを聞いている子どもたちが絵と文章を同時に楽しんでいると捉えています。そのため読み聞かせをしようとする絵本の文章は聞いて理解できることが大事だと考えています。最近勉強会でこの聞いて理解できることと読んで理解できることの違いを期せずして目の当たりにする機会がありました。私たちの勉強会はグループに分かれていてその中の一つのグループが東京子ども図書館の『絵本の庭へ(児童図書館基本蔵書目録1)』に載っている絵本の中から順番に絵本を選んで読み合っています。そこで取り上げられた『こうさぎたちのクリスマス』エイドリアン・アダムズ/ 作・絵がおもしろい体験をさせてくれました。

 勉強会で読まれたのは『こうさぎたちのクリスマス』エイドリアン・アダムズ/ 作・絵 三原 泉/訳 徳間書店でした。『絵本の庭へ』に取り上げられていたのは乾 侑美子 訳の 佑学社版なのですが、まさか2種類あるとは思わずタイトルと作者で検索をかけ意図せずに徳間書店版がヒットし何の疑問も持たずに勉強会で読まれたのです。聞いた感じは何となくモヤッとしていてすっきり物語が受け取れないという印象でした。最初は絵が十分見えないために受け取れないのかもしれないと考えたのですがどうもスッキリしません。この物語はうさぎの村の話で登場人物は全てうさぎです。主人公はお父さんお母さんがイースターエッグの絵付け職人の息子オーソン。オーソンは絵付けの勉強中ですが実際絵付けの作業も行っている少年です。このオーソンを慕っているこうさぎたちが自分たちでクリスマスパーティーを開いておとなたちを呼びたいからオーソンに協力してくれと頼んでくるのですが、この少年うさぎとこうさぎの違いを遠目で見分けることが難しいことが問題なのかと思ったのです。そして絵は美しく説得力があり登場人物たちの言動は好ましいのでうまく受け取れないことがもどかしく落ち着きません。

 ところが偶然佑学社版を持ってきた人がいて、表紙も中の絵の感じも違うけれどと見せてくれました。見ると訳者も出版社も違います。とりあえず読み聞かせでなく絵本のページを繰りながら比べてみました。すると佑学社版の方で読むと内容がスッキリ入ってくるのです。乾さんの訳の方が聞いて理解しやすいのです。そのため絵のどこをみたらいいのかがサッとわかり絵と文章を同時に楽しめるようになっています。対して三原さんの訳は読んでから絵をじっくり眺める楽しさがあり繊細な絵を堪能する挿絵的な楽しみ方に向いていると思います。絵本ですからどちらの楽しみ方が正解ということはありません。けれど三原訳は自分で読むことを、乾訳は読んでもらうことを視野に入れていると思います。訳者や出版社が読み手をどう捉えるかで仕上がりが変わってくるという興味深い例だと思います。