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聞く体験として

 生活習慣が変わったこともあり、子どもたちは育っていく過程で聞くことの体験が減ってきていると感じています。今の子どもたちにとって動画は珍しいものではなく絵が動かないことに違和感を覚える子がいる程、幼い時から動画に親しんでいます。そのため言葉だけで受け取るという体験をする機会がほとんどないまま、今の子どもたちは視覚からの情報がないと受け取れないというレッテルを貼られている印象です。元々人の能力というのは先天的に持っている力なのか体験することで培っていく力なのか自体くっきり線引きするのは難しいと思います。先天的に持っていた能力もどんな環境で育つかで能力の開花度合いは変わるでしょうし育つ環境で身に付く能力もあるといったように育つ過程で複雑に影響しあうものです。ですから今の子どもたちが聴覚からの情報だけでは受け取れないと思い込むのは早計だと考えています。

 私たちがしている読み聞かせもストーリーテリングも聞いて受け取ることの体験という捉え方ができます。聞き手は言葉から自分の想像力を働かせてイメージに変換し、絵本なら描かれている絵で確認しつつ、ストーリーテリングならイメージをつなげて場面として受け取ることで物語を物語として受け取っているからです。イメージを視覚化しリアルに動かし音までつけて動画になっているのだから既にそれで受け取れている子どもたちにそんな体験をさせなくともいいのではないかというご意見もあるかと思います。けれど動画では育たないものがあります。それは自分の想像力を働かせるということです。言葉からイメージを作る作業が動画だと必要ないというか、自分のイメージが入り込む余地がないのです。これは自分が確立しているおとなでは問題ないことだと思いますが子どもにとっては歓迎すべきことではないと思います。拙い自分のイメージよりプロの豊かなイメージを受け取れるのだからとおとなは思いがちですが、自分のイメージが作れてこそプロの素晴らしさが分かるのだと思います。ですからどんなに拙くとも自分のイメージが作れることが大事で、作る練習をしているのが子ども時代なのだと考えています。そしてイメージを作ることが想像力を育てます。想像力は自分を作ります。受け身ではなく自分で考えることからしか生まれないからです。言葉はその想像力の源でもあり言葉だけで受け取ることが自在にできることが人を人たらしめていると感じています。言葉で受け取ることを楽しく体験できるのが読み聞かせでありストーリーテリングだと思います。加えて人間の力は使わなければ衰えてしまいます。その点でも聞く体験は子どもたちにとって必要だと考え読み聞かせやストーリーテリングに取り組んでいます。