長い話に取り組んでみるのも

 語り手が物語を丸ごと受け取るための聞き方を磨くために、長い話を聞くことが有効だと考えています。短い物語ではおとなであるために「集中力が切れてしまう」「物語についていく事が苦痛になる」「余計なことを考え出す」といった物語を丸ごと受け取れていない症状を自覚することは少ないのですが長い話では聞き方の問題が炙り出されるからです。

 ただストーリーテリングは物語を丸ごと受け取る聞き方と丸ごと渡す語り方をしていないと成り立ちません。加えてテキストは聞いて受け取ることを意識している再話者のものである必要があります。ストーリーテリングはテキストと語り手と聞き手が作り出す世界です。それぞれが聞いて物語を受け取ることを熟知し聞いて受け取る醍醐味を知っていることで物語の魅力が引き出され楽しめるのだと思います。

 だからこそ語り手は聞いて受け取ることの熟練者であるべきだと考えています。そして聞いて受け取る体験を積むには数を聞くしかありません。月に一回とはいえ私たちが勉強会を大切にし続けているのはそのためです。資格試験のように目に見える完成ラインがある訳ではないので聞き続けるしかないのです。

 そんな中で問題はストーリーテリングの語り手は自分が語る時のことが基準になりがちなところです。語り手として長い話というと15分から20分くらいの物語を思い浮かべる事が多いと思います。けれどおとなが自分の聞き方を見直す機会として長い話を聞くなら30分以上の話の方が効果的だと思います。私たちは聞き手がいてこその語り手なので勉強会は聞き手を想定して物語を選び語る場として長いこと活用してきました。私たちが語る相手は基本的には小学生以下の子どもたちでその子たちに向けて物語を選ぶので長い話が語られることはほとんどありません。文庫のように聞き慣れた子どもたちを育てなければ30分ものの物語を受け取れるような聞き手になりませんが私たちはそういった聞き手を育てる場を持っていないからです。けれど自分たちの聞き方を確認するためには長い話に取り組んでみてもいいのではないかと思います。『おはなしのろうそく』は、各巻がおはなし会のプログラムとして使えるような組み合わせになっているので、それぞれの最後の話はどれも長い話で締め括られています。プログラムの最後を飾るような話にみんなで取り組んでみるのも楽しいと思います。