テキストの問題

 東京子ども図書館の『おはなしのろうそく』がストーリーテリングのテキストとしてハズレがないのは、耳で聞くことを熟知している人たちが関わっているからだと思います。一方数ある昔話の本をストーリーテリングのテキストとして使った時に聞いて受け取りにくいと感じる事があります。これは昔話の再話者が民俗学や文学などの研究者である事が多いからだと考えています。物語がどう聞こえるかよりも伝承の話を記録するところに比重が置かれたり、学者故に翻訳の正確さに拘ったりすることで聞く物語としては味わいが損なわれる事があるからです。

 ストーリーテリングはテキストを選ぶ事が重要だと言われるのはこの問題があるからだと思います。語った時にどう伝わるのかはテキストの言葉の選び方や描写の語り口で印象が変わります。耳で聞いてぱっとイメージできる言葉の使い方は聞き慣れていないと判断がつきません。黙読した時にイメージしやすい言葉づかいと聞いた時にイメージしやすい言葉づかいは同じではないのです。実際東京子ども図書館のおはなしのろうそくもテキストとして作られた薄い本と読書することを前提として作られた愛蔵版おはなしのろうそくでは言葉づかいが違うものがあります。愛蔵版は薄い本を2冊づつ合本にし挿絵を増やしただけだと最初は思っていましたが、ぴったり同じではないのです。こんなところでも聞くためにふさわしい言葉と読むためにふさわしい言葉は微妙に違うことを窺い知る事ができます。

 私たちは語り手として、聞いて受け取ることがスムーズにいく言葉づかいや表現に敏感になる必要があります。語り手が聞いて物語を受け取ることと読んで物語を受け取ることの違いを知って耳を鍛えることは語り手としてレベルアップすることだと考えています。