説明ではなくて

 ストーリーテリングを聞いた事がない人にストーリーテリングの説明をするのは難しいと感じています。これは読み聞かせでも朗読でも一緒です。どれも聞いて受け取るものなので、聞いた経験がないと伝わり方の話をされても分からないのは当たり前だと思います。

 実は私は一度もストーリーテリングを聞いた事がないまま、語ることを始めました。その頃上田にはストーリーテリングをする人はおらず、長野県内でも松本のあがたの森図書館で語る人がいるらしいという話を聞くくらいでした。そのため東京子ども図書館のテキストを頼りにそこに書いてあることを忠実に守ることでストーリーテリングに取り組みました。おはなしの会を立ち上げ聞き手には恵まれましたので、子どもたちに付き合ってもらうことで語り手としての歩みを進めたのです。何もかも手探りの状態でわからないことだらけでしたが、一緒におはなしの会をする仲間と共に、とにかくやる気だけは十分でした。

 そして無我夢中で月1回のおはなし の会をこなして2年程過ぎた頃、ふじい文庫の藤井先生にご指導いただけることになりました。初めて勉強会に参加した時の驚きは今も忘れられません。語り手がストーリーテリングをこんなに楽々と語るものだとは思いもしませんでした。初めて聞いたストーリーテリングは生き生きと語られ、まるで物語の世界を見ているかのように感じられたのです。テキストに書いてある「言葉に忠実に」とか「登場人物になり切るわけではない」とかいう説明は説明でしかありませんでした。その指示を守ろうとした段階で既に物語を渡す役割から外れてしまっていて「声がどうの」とか「語り方がどうの」とか考える余地がないほど物語の世界へ誘われ、物語の世界を感じさせるのがストーリーテリングだと納得し堪能しました。

 誤解を恐れずにいうと、説明できたからといって語れるわけではないのです。説明から入っては核心に迫れないものなのだと思います。まずは聞くところから始めるというのがストーリーテリングでは大事なのだと思います。そして物語を耳から受け取る経験の積み重ねで語り手としてセンスが磨かれると思います。