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新刊の棚

 図書館へ行ったらいつも新刊の棚を見ることにしています。公共図書館の場合、分類されて書架に並ぶと目当ての本は見つけられますが、新しい本を棚から探すのは難しいからです。先日いつものように新刊の棚から見つけた絵本に今までにない感想を持ちました。

 気になったのは『きょうも のはらで』エズラ・ジャック・キーツ/え 石津 ちひろ/訳 好学社  です。言わずと知れたキーツの作品で、美しいキーツの絵が目を惹きます。そして翻訳も石津ちひろで絵本作家であり詩人であり翻訳家という実力者です。読んだ第一印象は絵本としての印象が薄いという感じでした。これだけ美しい絵で画集だと言われても遜色がない雰囲気なのに絵本として伝わってくるものが弱い感じがします。絵本を隅から隅までよく読んでみると、この本のテキストはアメリカの伝統的な数え歌を元に1800年代後半にオリーブ・A・ワズアースが書いたとあります。100年以上前のテキストでわらべうたに近い印象のものなのでしょう。そしてこの絵は1971年に描かれ、2021年に好学社が日本で翻訳出版しています。総合的に見て今まで翻訳されずにいた50年以上の時間には意味があったのではないかと想像しています。日本語にすると生きてこないニュアンスと伝承という二つの壁を越えるのは意外と難しいのではないかと改めて思います。

 例えば谷川俊太郎の訳したマザーグースは力作だと思いますが、つみあげうたとして有名な「これはジャックが建てた家」より、日本語で谷川俊太郎が創作した「これはのみのぴこ」の方が生き生きしてユーモラスで文句なしに今の日本の子どもたちを魅了します。言葉にはその言語が持つ文化的背景や生活から切り離せない感覚があります。ですから翻訳で楽しむためにある程度の知識がないと受け取れないものもあるのだと思うのです。もちろんそういった知識を必要としない優れた絵本も多々あります。キーツの作品でも『ゆきのひ』や『ピーターのいす』などは幼い子どもの気持ちに寄り添いアメリカの子どもたちだけでなく英語を母語としない国の子どもたちの気持にも共鳴し親しまれてきています。絵本を見るときに作者だけで判断せずに中身をよく確かめることも大事なのだと思いました。